コラム:米韓演習中止、同盟国が恐れる米軍「世界撤退」の序章か

コラム:米韓演習中止、同盟国が恐れる米軍「世界撤退」の序章か

REUTERS コラム2018年6月22日 / 16:52

[21日 ロイター] - 北朝鮮との交渉の一環として、米韓合同軍事演習を中止するとのトランプ米大統領の予想外の発表は、国防総省と韓国政府を驚愕(きょうがく)させた。

しかしこの動きを最も警戒しているのは、アジアと欧州の主要米同盟国だろう。米国が同盟国の防衛にカネを使いすぎているとのトランプ大統領の発言にすでに神経質になっていたからだ。

米軍の訓練活動がどの程度中止されるかはまだはっきりしていないものの、その中には8月に予定されていたいくつかの大規模演習が含まれるようだ。とりわけこの2年、米国はこのような軍事演習を使って核プログラムをやめるよう北朝鮮に明白に脅しをかけてきた。トランプ政権は明らかに、軍事演習の中止により、北朝鮮がミサイルや核弾頭の開発を凍結することを期待している。

それ自体は、必ずしも悪い取引ではない。状況悪化や壊滅的な衝突のリスクを後退させるなら、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は歓迎するだろう。

だが、トランプ氏が朝鮮半島からの米軍完全撤退を積極的に検討していたとみられることは、韓国政府を動揺させるだろう。また、これまで敵対国への抑止力として米軍のプレゼンスや合同軍事演習に頼ってきた米同盟諸国にとっても、このような展開は実に憂慮すべき事態であろう。

それがどこよりも明らかなのは欧州だ。7月に開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にトランプ氏が出席することに当局者は緊張を強めている。

トランプ氏は、欧州大陸に駐留する米軍兵士6万5000人は言うまでもなく、欧州各国が防衛のための拠出する費用があまりに少なすぎると明言している。昨年、この件に関して他の加盟国を公然と非難した。そして今月にカナダで行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)が後味の悪い結果となったことを受け、今回のNATO首脳会議ではさらに激しい激突が起きるのではないかとの懸念が広がっている。

米国は目下、バルト諸国などでの大規模演習を支援するため、相当な数の部隊を欧州に一時展開している。攻撃されれば、米国とNATO加盟国である米同盟諸国は一丸となって反撃するという明白なメッセージをロシアに送ることが狙いだ。2014年のクリミア併合により除外されたロシアを復帰させるべきだとする米国とイタリアのG7での提案は、ますます主張を強めるロシアのプーチン大統領に対して共同戦線を張るという欧州の期待をしぼませている。米軍の活動がどのような形であれ縮小されれば、共同戦線を築こうとするNATOの試みはさらなるダメージを受ける。

今のところ、米国は欧州からいかなる軍も撤退させることを示唆していない。このことは、特に東欧諸国を大いに安心させる。だが、NATO加盟国の多くが心配しているのは、トランプ氏と同氏の世界観を支持する数少ない政権の1つであるポーランドの国家主義的政府が、同氏と何らかの合意に至る可能性だ。


先月の報道によると、ポーランドは自国に米軍の機甲師団を配置させ、すでに駐留している小規模の米軍部隊を補完させるための費用として、最大20億ドル(約2200億円)を米政府に支払うことを申し出ている。実現すれば、東欧における米軍のプレゼンスが高まることになる。しかし同時に、これは米軍の国外駐留に関する他の合意から大いに逸脱する。

ドイツ、日本、英国、イタリア、トルコなど、相当な規模の米軍を駐留させている国々は、駐留経費を負担、あるいは助成金を出すなどして米軍を支援していることが多い。しかし、米軍を駐留させるために直接米政府に支払った例はめったにない。

今後はポーランドの取引が前例となり、トランプ政権が、米軍の駐留を続けるため事実上の「用心棒代」を要求し始めることを、米国の他の同盟諸国は危惧している。

来月のNATO首脳会議では、防衛問題が、トランプ政権が固執する他の主要外交政策―─米国の国益優先で世界と貿易を再交渉すること―─と関連付けられる可能性がある。

トランプ大統領は常に、多くの国が米国に「悪い取引」をさせているとの見方を明確にしている。その中には、防衛面で米国に大きく依存する国も含まれる。

朝鮮半島情勢に関して言えば、軍事演習の縮小により、とりわけ時間の経過とともに、米韓軍部隊の有事への備えが以前より十分ではなくなることは避けられないと、一部の軍事専門家はすでに警鐘を鳴らしている。その一方で、軍事演習の中止により、北朝鮮が兵器実験を再開した場合に簡単に外交的圧力を強化できる選択肢を米韓両国は手にしたことになる。


主要な軍事演習は常に、国際的な結束を誇示し、外交的圧力を強めたり弱めたりする手段として使われてきた。朝鮮半島におけるトランプ氏の動きもそうしたダイナミクスの一環かもしれない。だが米同盟諸国が最も恐れているのは、これが、より広範囲な米軍撤退、とりわけロシアや中国のような潜在敵となり得る大国と国境を接する地域から撤退する始まりとなることだ。

そのような孤立主義的アプローチは、トランプ大統領支持者の大半だけでなく、中東などにおける近年の米軍事行動は高額で、大きな損害をもたらした過ちだと考える人たちから歓迎されるかもしれない。

過去20年において、米国による軍事行動が常に国際社会に安定をもたらす源であったわけではない。とはいえ、約70年にわたり、欧州やアジアにおける米軍のプレゼンスは、しばしば不安定ではあっても平和を維持するのに役立ってきた。

朝鮮半島で何が起きようとも、シンガポールでの米朝首脳会談から得られた最大の教訓は、世界が米軍によるそのようなコミットメントを当たり前だともはや考えることはできない、ということかもしれない。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


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